平成25年度 京都老舗の会総会 パネルディスカッション

2014年03月01日更新

平成26年1月31日(金)午後5時20分~6時30分 ANAクラウンプラザホテル京都 2F平安の間

パネリスト 園部晋吾 氏((株)平八茶屋 代表取締役)
玉置万美 氏((株)半兵衛麸 専務取締役)
村上憲郎 氏((株)村上憲郎事務所 代表取締役)
コーディネーター 山下 晃正(京都府副知事)

山下日本のグローバル化がどれだけ進んできたかを示す指標として、(1)GDPに対する輸出の割合、(2)GDPに対する対内直接投資の割合、(3)GDPに対する対外直接投資の割合の3つがある。日本は貿易立国と思われがちだが、GDPに対する輸出の割合は2割にも満たず、統計のある148ヶ国の中で日本は132番目である。GDPに対する海外企業の日本への投資は限りなく小さい。GDPに対する日本企業の外国への投資もそれほど大きくない。数字だけを見ると我々が思っているほど日本はグローバル化されていないという見方ができる。
一方で、韓国には100年以上の企業が無く韓国KBSが日本に取材に来られたり、中国から京都に事業の承継について学びに来られたりしている。我々が思っている以上に世界の中で老舗の価値は高い。このギャップをもとに議論をさせていただきたい。
<自己紹介(省略)>

山下グローバル化とはどんな変化なのか。ある勉強会で、グローバル化と国際化は同義語ではないと教わった。京都にどんなメリットや利益がもたらされるのかを考えるのが国際化、地球全体の中で京都がどんな役割を果たすべきかを考えるのがグローバル化ということだった。グローバル化や国際化は日常的によく使う言葉だが、1人1人考えておられること、感じておられることが違うと思うので、まずはそこからお話をうかがいたい。

村上インターネットがもたらしたのは、The death of distanceである。距離にかかわらず、一瞬にして世界と繋がる。インターネットを活用すると、意識しなくてもグローバルであり、ローカルである。ローカルに世界中を引き寄せることも可能である。グローバルというと、海外に出て行かないといけないとか、多国籍化していないといけないとか、本社機能も世界中に散らばっていけないと思われている。インターネットという仕組みを使えば、ローカルのままでグローバルになれる。

山下アメリカと日本のビジネスの違いを感じられたことはあるか。

村上シリコンバレーでネット企業が増えだした頃から、サービスや製品を考えるときに、世界を相手にすることを自然に考えるようになった。英語が結果的に世界的な公用語のようになり、期せずして市場をグローバルで考えているという形になった。

山下老舗はファミリービジネスが多い。グーグルは経営陣に日本人の村上さんが入られるなど、あまり壁がないように思えるが、そういう所に強さやメリットを感じられたか。

村上英語で上場(株式公開)を Initial Public Offering(IPO)という。上場は、企業がpublicの持ち物になることを意味する。グーグルには2人の創業者が残っているが、結果的に残っているにすぎない。上場したところで公の持ち物になるという意識がある。企業を創業すると、その出口の1つがIPOで、もうひとつは売却である。企業は存続していくが、ownershipとは分けて考えられている。

山下老舗の家訓には公益性について書かれているものが多い。ファミリー企業であっても公益性は重視されているが、公益性の意味は日本とアメリカでは少し違う感じがする。
今度は老舗の方から、グローバル化について感じておられることをお話いただきたい。

玉置ある勉強会でグローバル化と国際化の違いについて柔道と相撲の例えで教わった。両者とも日本が発祥であるが、柔道はグローバル化。日本の文化やその競技の背景を気にされず、ルールは世界基準で決めるようになった。相撲は日本の文化を守ったまま世界でも認められているので国際化と聞いた。
世の中は常に変化し、その変化にどのように対応していくかを日々考えている。グローバル化、国際化もその変化のひとつだと思っている。それだけを特に意識したことは今までなかった。

山下京都に宿泊されている外国人が年間約100万人おられる。もともとアメリカやヨーロッパが多かったが、最近はアジアの方が非常に増えてきているので、マーケットの違いが発生している。海外から来られる外国人の旅行における食の価値が上がっている。半兵衛麩ではどうか。

玉置当店では外国人が急に増えたということはない。以前からベジタリアンの方が植物性の麩を食べに来られるということはある。それは先ほどの国際化だと思うので、喜んでいる。

園部情報が瞬時に行き交うことができる、誰もが情報を発信できる状態で誰もがそれを読み取ることができるというような、今まであった垣根が無くなっていることがグローバル化だと思う。今までは美食家やジャーナリストなど食に携わっておられる方がコメントをして、それが雑誌などに掲載されるという形で店の評価や宣伝が行われてきたものが、その垣根が無くなって一個人の方が一個人の感想で店を評価するようになってきた。今まで周囲の人にしか言うことができなかったことが、全世界に発信できるようになり、全世界の人が瞬時にそれを見ることができるようになった。
今までは料理屋のことをよく知っておられる方が、色々な要素を鑑みてお店を評価していたものが、一個人だと例えば味やサービスだけに特化した見方をされてしまう。情報過多の社会では、その情報だけに判断を委ねてしまうことあって、自分たちでは判断できなくなってきていると思っている。
100名のお客さんが来られて、100名それぞれに同じように接客接待、料理を提供するのが基本であるが、至らなかった所やお客さんの思っておられる所とギャップが生じたときにお店の評価は大きく下がってしまう。それがグローバル化によって全世界に流れていってしまっている。

山下サイバー空間における即時性や情報がどこまで流れるかが分からないというお話だと思うが、その影響は具体的にどんな所で感じておられるか。

園部店に点数を付けられると、自分たちの判断ではなく点数だけに左右されて高得点のお店に行かれてしまっている。

山下点数に納得されているか。

園部そういう物事の流れに対して歯止めをかけることはできないので、その流れに乗っていくか、逆らっていくかの2者しかない。

山下ある京都のホテルでは、インターネットでの評価について毎週の経営戦略会議で議論されている。良い情報と悪い情報を選別して、悪い情報についてどう改善するかを検討されている。あるサービスで悪い評価をされていたものが、2週間後にはサービスが改善されていたという情報がインターネットに上がった。そうすると、このホテルは消費者のことをよく見ているという評価が定着して、結果としてホテルへの安心感が高まった。
村上さんは、リアルタイムに今何が起こっているのかが分かるような社会がきていることについてどのように考えているか。

村上ネガティブなコメントをあまり気にしないスルー力も必要である。自分の商売に自信さえあれば、聞き流していただきたい。ネガティブなコメントを逆手にとって話題にする炎上マーケッティングすらある。

山下平城遷都1300年祭のマスコットキャラクター、せんとくんは最初はひんしゅくをかったが、一転人気者になって全国的に有名なゆるキャラのひとつになった。デザインされた東京藝術大学の先生は、ハレーションを起こした後に評価
されるという確信を持っていたと話されていた。
老舗には、色々意見が出てもこれは自分の所は変えられない、これをやっていることが評価を得るだろうと自信を持たすものがあると思っている。ベンチャー企業であれば社会を変えていきたいという大きな信念が、スルー力や体力になる。300年、400年と続いている老舗であれば、その間の代々繋いでこられた方のノウハウがあって、それぞれの老舗の揺るぎない自信の一端になっていると思っている。最も大事にしていること、最もここが強いと思っておられる所があればお話をうかがいたい。

園部同族で続きやすい環境があった。父親も自分は駅伝ランナーで次にタスキを渡すことが自分の仕事だとよく言っている。そう言えるのは、自分の意思を継いでくれる者がそこにいるからである。自分が何か決定するときには、これを自分がすることが子や孫にとって良いことなのだろうかということを判断基準のひとつにしている。例えば大きなお金をかけるときに、後々にとって必要か不必要でないかが判断基準になる。それは強みと言えるのではないかと思う。

山下長期的な経営判断をされているということだが、ここは変えたくないと思っておられることはあるか。

園部家訓はなく、当代が自分の思うとおりにしてきているが、自分の代だけ良ければいい訳でなく、子や孫の代のことを考えながらの繋ぎということが確立されている。父親も色々なことを変えてきたし、私も変えていっているので、自分の中では変わってきているという気はしている。しかし、50年前に来られたお客さんが再び来店され、50年前とは建物、料理、素材、サービスや考え方が全然違うのにここは昔と変わらないなとおっしゃってくださる。それがうちらしさと思うが、それが何なのかは分からない。

玉置老いた舖になってはいけないので、「老舗」という漢字を使わず、ひらがなで「しにせ」と表記するようにしている。家訓のひとつに不易流行があり、常に新しい店であれ、今の時代に合わせて自分がもし創業者だったらと、常に新しいお店の気持ちでどうすればお客さんに喜んでもらえるかを大事に思っている。

山下ここはきっちりやりたいということはあるか。

玉置私が仕事を始めた頃、店頭でお買い物をされる方は50代、60代が中心だった。麸というものの先を案じて、若い方が麩を食べたいと思ってもらえるようにするにはどうしたらいいかを考えた。従来の煮物や吸い物だけではなく、今の生活に合う麩の使い方を提案し始めた。麩にオリーブオイルやチーズなどを合わせたレシピも紹介している。お客さんが何を望むかは時代や年代によって変わる。半兵衛麩としては昔からの麩を作り続けているが、次の時代にも続けて麸というものが、生活の中で使って頂けお客さまに喜んでもらえるにはどうしたらいいかということを絶えず考えている。

山下お二人の見解を聞いた感想を。

村上代々引き継いで来られた強さを持たれている。その上で、次の一手をどうお考えになられているのかが気になった。スマートフォンが昨年10億台売れた。
スマートフォンの次にはウェアラブル機器の時代が来る。家電もインターネットに繋がるようになる。社会的な激変が止まらない中で、老舗がどういう影響を受けるのかについて考えておられるのか心配になった。

山下外国人のベジタリアンの方が半兵衛麩のお店に来られたのは、どんな店で、どんな食材で、どんな料理が出されるかを事前に分かっていたからだと思う。店のことを知った上で来られる方が増えている。そういう中で、次にどんな一手を打ちたいか、あるいは逆の一手を打ちたいかについてお話を伺いたい。

玉置インターネットで調べて店に来られる方は期待して来られるので、その期待を超えられることをしようと従業員に伝えている。お客さんがインターネットに書かれたことには、自分たちでは全く気が付いていなかったこともある。また、グローバル化の中では京都らしくやっていきたいと思っている。電子メールの反動で絵手紙が流行ったりするので、情報化、グローバル化の中で、昔ながらを守ることがあってもいいと思っている。
村上さんから上場の話があったが、自分の目の届く範囲で、責任を持って最後まで見届けられる規模の商売を続けていこうと思うと世界規模での商いは難しい。目標を上場等と考えずに長く続けていけることを考えて、次の大きな一手は打てないが、日々の小さな一手を打っていくことが半兵衛麩の生き方だと思っている。

園部私も個人として情報を発信できる。例えばフェイスブックでイメージを高めたり、興味を持ったりしてもらうことができる。今まで老舗は、秘すれば花という形で、全部言ってしまうのではなくて、少しだけ見せて後の90%はお客さんに想像してもらいながら、感じてもらいながら、その良さを味わっていただくというのが基本的なスタイルだった。これがグローバル化していくと、黙っていたら埋没してしまう。店のホームページでは、今まで書いていなかったことを細かに書き出した。そうして情報を発信していくことで、色々な所からアプローチが来るようになった。例えば、お食い初めのページを作ってやり方を紹介したところ、お食い初めでお店に来られるお客さんが増えた。情報を開示して載せていくことで、間口を広げてお客さんを呼び込んでいくことが重要だと思っている。

山下知恵を公開していただき、その知恵を学び合うことによって自分なりの知恵を作っていただきたいという思いで老舗の会を作らせていただいた。今日の議論を参考にしていただいて、次のステップへ進んでいただきたい。